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千葉地方裁判所 平成4年(わ)1347号 決定

被告人 K・Y(昭51.1.15生)

主文

本件を千葉家庭裁判所に移送する。

理由

一  罪となるべき事実

被告人は、暴走族「甲」△△支部の幹部(行動隊)であるが

第一  暴走族「甲」△△支部、○△支部の構成員ら多数と共謀の上、平成4年7月19日午前零時30分ころから同日午前2時5分ころまでの間、茨城県鹿島郡○△町○○××番地付近の通称○○から国道××号線、銚子大橋、千葉県銚子市道などを経て千葉県銚子市○○××番地の×付近に至る道路において、被告人の運転又は同乗する自動二輪車等をはじめ普通乗用自動車約20台、自動二輪車約25台の車両を連ねて通行させ、又は並進させた際、同日午前2時ころ、同市○○町××番地の×付近道路において、被告人においてA運転の自動二輪車に同乗し、同市○○町方面から同市○○町方面に向かい時速約20ないし30キロメートルで一団となって道路一杯に広がり進行し、折から反対方向から進行してきたB運転の普通乗用自動車の通行を妨害し、同人をして接触の危険を感じさせて停止の措置を取ることを余儀なくさせ、次いで、同日午前2時2分ころ、同市○○町×番地の×付近の信号機により交通整理の行われている交差点を、被告人において右A運転の自動二輪車に同乗し、同市○○町方面から同市○○町方面に向かい時速約20ないし30キロメートルで同交差点の対面する赤色信号を無視して同交差点を一団となって直進し、折りから右方交差道路から青色信号に従って同交差点に進入しようとしたC運転の普通乗用自動車の通行を阻止し、もって、共同して、著しく道路における交通の危険を生じさせる行為及び著しく他人に迷惑を及ぼす行為をし

第二  公安委員会の運転免許を受けないで、同日午前2時ころ、同市○○町××番地付近道路において、自動二輪車を運転し

第三  前記「甲」△△支部の構成員ら多数と共謀の上

一 同日午前2時5分ころ、同市○○町××番地の×付近路上において、被告人らの右のような暴走行為を注意したD(当時30歳)に対し、こもごも、頭部を手拳で殴打し、胸部を足蹴にするなどして、同人を路上に転倒させた上、転倒した同人を取り囲み、一斉に腹部等を足蹴にする暴行を加え、よって、同人に腹部打撲(肝臓損傷)等の傷害を負わせ、同日午前5時35分ころ、同県旭市×の××番地○○病院において、同人を右傷害により失血死するに至らせ

二  同日午前2時5分ころ、前同所の路上において、右Dとともに被告人らの右のような暴走行為を注意し、右Dが倒されているのを見て同人を助けようとしたE(当時30歳)に対し、こもごも、同人を路上に転倒させた上、転倒した同人を取り囲んで腹部等を足蹴にするなどの暴行を加え、よって、同人に加療約2か月間を要する胸部損傷兼右第八肋骨骨折等の傷害を負わせたものである。

二  前項記載の罪となるべき事実は、当公判廷で取調べられた各証拠によって認めることができる。

なお、被告人は、判示第三の一、二の各事実につき、当公判廷において、いずれの被害者に対しても暴行を加えた事実はないことを供述し、弁護人もこれに添い、加えて、いずれも共謀の事実が認められないなどとして、右各事実につき無罪を主張しているので、以下、補足して説明を加える。

1  判示第三の一の事実につき、被告人の実行行為の有無

(一)  被告人は、捜査段階以来、一貫して、Dに対して自ら暴行を加えた事実を否定している(被告人の検察官に対する平成4年9月24日付け供述調書など。)

(二)  この点につき、Fは、第3回公判期日において、「被告人は倒れたDの周りに立っていた。Dの足の隅の方にいた。被告人が蹴った足は見ていないが、体が動いていた状況からDを蹴っているものと思った。」旨を供述し、Aは、当公判廷において、「被告人が、他の者と一緒に、倒れたDの周りを囲んでいた。被告人がDの身体を3回位蹴ったのではないかと思う。体付きや服装などでそのように判断した。」旨を供述している。

(三)  そこで、検討するに、Fは、当時、暴走族「甲」△△支部の総長であり、同じ幹部である被告人の同一性の認定は正確であると考えられる上、その供述内容は具体的であること、Aは、当時、同暴走族の特攻隊長をしており、本件当日の暴走行為の際は、判示第三の犯行現場の手前約1.5キロメートルの地点から右現場まで、その運転する自動二輪車の後部座席に被告人を同乗させるなどしていたもので、しかも、右犯行現場から逃走するときも被告人を同乗させたという事情にあり、同じ暴走族の幹部である被告人の体付きや服装を正確に認識していたものと認められること、F及びAにおいて、記憶に反してまでかつての仲間である被告人に不利益となる供述をするような事情は存しないこと、以上のF及びAの各供述は、ほぼ符合しており、相互に裏付けとなっていることに照らすと、F及びAの右各供述は信用できるものと考えられる。したがって、被告人は、自ら、路上に転倒したDの身体を足蹴にする暴行を加えた事実が認められる。

2  判示第三の二の事実につき、被告人の実行行為の有無

被告人は、捜査段階以来、一貫して、自らEに対して暴行を加えた事実を否定しており、他にもこれを認めるに足りる証拠はない。

3  判示第三の一、二の事実につき、被告人の共謀の成否

関係各証拠によれば、暴走族「甲」△△支部は、OBである最高実力者の統率の下、総長、サブリーダー、行動隊長、特攻隊長などといった暴走行為において現場で指揮をとるなどの役割を持つ幹部が定められていたほか、上下関係が厳しく規律され、上からの指示に従わない場合には私的制裁も加えられるなど、その構成員に対し強度の統制力が働いていたこと、本件現場においても右最高実力者からDに対し暴行を加える旨の指示が出され、それに従って総長が率先してDに暴行を加え、その後に同暴走族の幹部らその構成員及びその他の者らが一斉に倒れたDを取り囲んでこもごも足蹴にするなどの暴行を加えていること、Dに対する暴行に引き続き、Eもその場に倒されて、Dを蹴っていた前記暴走族構成員らに取り囲まれた上、同様に足蹴にされたこと、被告人は過去に右最高実力者の指示により総長をしていたことがあるほか、本件当時も行動隊という幹部の立場にあり、Dに対する暴行が開始されるまでの経緯を間近で見ていたもので、さらに、Dに対する暴行が加えられる前からEをも認識しており、この二人は仲間であると考えていたこと、被告人自身も右最高実力者の指示を認識したことなどの諸事実が認められ、加えて、前記認定のとおり、被告人は、倒れたDを取り囲む輪の中に入って同人を足蹴にする暴行を加えた事実を併せ考慮するならば、被告人は、本件現場において右最高実力者からDに対する暴行の指示が出された時点で、その場にいた他の暴走族構成員らとの間でDに対する暴行の共謀に参加したものと認められるばかりでなく、引き続いてEに対する暴行が開始された時点で、同人に対する暴行の共謀にも加わるに至ったものと認めるのが相当である。仮に、被告人においてたまたま他の構成員からEに対する暴行への参加を止めるように言われたことがあったとしても、すでに成立した右共謀関係から離脱したと認められる事情が存しない本件にあっては、被告人は、Eに対する傷害の事実についても現場において成立した共謀に基づき、共謀共同正犯としての責任を免れないというべきである。

三  罰条

被告人の判示第一の行為は刑法60条、道路交通法118条1項3号の2、68条に、判示第二の行為は同法118条1項1号、64条に、判示第三の一の行為は刑法60条、205条1項に、判示第三の二の行為は同法60条、204条にそれぞれ該当する。

四  被告人に対する処遇

本件は、被告人を含む暴走族の構成員らが、道路交通法の共同危険行為・迷惑行為をした上、これを注意しに来た男性2名を、大勢で取り囲み、転倒させ、足蹴りを加えるなどして、判示のとおり、傷害致死、傷害の各犯行に及んだという重大かつ極めて悪質な事案である。なお、被告人は右暴走行為の際、無免許運転をも行っている。傷害致死、傷害の事実については、その動機に何ら酌量すべき点はないし、その各暴行の態様も執拗で悪質である。

しかしながら、被告人は、犯行当時16歳6か月、現在17歳8か月の少年であり、これまで補導などされたことがあるが、家庭裁判所に係属したことは本件が初めてであること、幼稚園のころ両親が離婚したことにより家庭環境が安定せず、そのことが被告人の人格形成に少なからぬ影響を及ぼしていると認められることなどに加えて、本件犯行は、暴走族の暴走行為中にたまたま通り掛かってこれを注意した被害者らと暴走行為に参加していた一部の者らとの口論に起因するところ、被告人は、その現場で様子を見ていたものの、本件の原因自体には関与していないこと、被告人は、過去に本件暴走族の総長をしていた経験があり、犯行当時も行動隊という幹部であったが、実質は成人の最高実力者や年長の幹部らの指示に従う立場に置かれていたに過ぎなかったこと、実行行為の分担においても、被告人が傷害致死の被害者に対して強度の暴行を加えたとまでは認められず、傷害の被害者に対しては実行行為に出ていないことなどの諸点を総合すると、被告人に対しては、不定期刑とはいえ懲役刑に処するよりは、むしろ少年院において処遇する保護処分が相当であると認められる(なお、本件公訴事実のうち傷害致死及び傷害の事実については、被告人が捜査段階以来、家庭裁判所及び当裁判所においても否認していたものであるが、当裁判所における証拠調べの結果、右各事実についても前記のとおり有罪の認定に至ったものであり、これにより、刑事裁判所としての当裁判所の役割がすでに果たされたものということもできよう。)。

よって、少年法55条を適用し、本件を千葉家庭裁判所に移送することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 中川武隆 裁判官 山口均 佐藤正信)

〔編注〕 受移送審(千葉家平5(少)2452号 平5.10.8中等少年院送致決定)

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